裁判離婚では、法的な視点が必要になります。離婚をお考えの方に向けて、民法で定められている離婚原因をご紹介します。夫婦には果たすべき義務があり、それを怠れば離婚原因として法的に認められます。
夫婦の4つの義務
結婚している夫婦になると、4つの義務を負うことになります。そのうち「同居義務」「協力義務」「扶助義務」の3つは、民法752条に「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。正当な理由なく同居を拒んだり、生活を渡さなかったり、家事や育児を放棄したりすることは認められていません。
4つ目は「貞操義務」です。貞操とは、配偶者以外の人と性的関係を持たないことです。
- 同居義務とは?
- 夫婦は一緒に住むことが義務付けられていて、単身赴任などの正当な理由なく、同居を拒むことはできない。相手の同意なく別居したり、配偶者を閉め出したりすることもできない。
- 協力義務とは?
- お互いが支え合って生活を営むことが義務づけられている。家事や育児などを放棄したり、悪意を持って相手の生活を破綻させようとしたり、迷惑をかけたりすることはできない。
- 扶助義務とは?
- 夫婦が同レベルの生活を送れるようにするため、収入格差を考慮し、収入の多い側が相手を支えることが義務づけられている。生活費を渡さないということはできない。
- 貞操義務とは?
- 民法に貞操義務を直接規約している条文はない。しかし、離婚原因の一つに不貞行為が入っていることから、配偶者以外と性的関係をもたないことが義務づけられている。
法定離婚原因とは?
離婚裁判となった場合、裁判所が離婚を認めるのは、民法770条1項が定める「法定離婚原因」に当てはまる場合のみです。逆の言い方をすると、法定離婚原因に当てはまれば、相手が離婚したくないと主張していても、裁判で離婚が認められる可能性があります。
法定離婚原因のうち第1号~第4号は、夫婦の義務が果たされていないことが具体的に挙げられています。
第五号に関しては、夫婦の義務が果たされたかどうかではなく、夫婦関係を修復できないほど破綻させ、夫婦関係の継続が困難となる事由がある場合に離婚が認められます。
幅広い解釈ができるため、離婚裁判の多くは、第五号に当てはまるかどうかが争点となります。しかし、離婚判決が出るかどうかはケースバイケースです。
第1項 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 第1号 配偶者に不貞な行為があったとき
- 自分の意思により配偶者以外の異性と性的な関係を持った場合。不倫など。
- 第2号 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 正当な理由なく生活費を渡さない場合や、同居を拒むような場合。
- 第3号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 家出、失踪、行方不明などで、消息がなくなってから3年以上経過している場合。
- 第4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- 回復の見込みがない強度の精神病により、夫婦の義務を果たせなくなった場合。
- 第5号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
- 暴力、セックスレス、親族との不和、長期間の別居などで、夫婦関係が破綻している場合。
不貞行為とは?
夫婦は配偶者以外の人と性的関係をもってはならない、という貞操義務を負っています。この義務を守らず、配偶者以外の異性と自分の意思で性的関係をもつことが「不貞行為」にあたります。浮気や不倫で離婚裁判を起こすには、不貞行為があったかどうかが問題となるのです。
性的関係があったかどうかが問われるため、愛情があってデートを重ねていても、プラトニックな関係であれば、基本的には不貞行為にはなりません。反対に、酔ったはずみで一回だけでも、風俗店での行為でも、自分の意思で性的関係をもてば、不貞行為があったことになります。
- 不貞行為と認められるケースとは?
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- 性的関係を伴う継続的な浮気
- 酔ったはずみなど、一度だけの性的な関係
- 不特定の相手と売春・買春
- 風俗店に通い続けている
- 不貞行為と認められないケースとは?
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- 好きな人がいて、交際しているが性的な関係はない
- レイプなど、自由意思によらない性行為
- 別居後に性的関係をもった場合
不貞行為の証拠があれば裁判で有利
不貞行為があったかどうかを争う場合には、証拠を集めておくことが何より大切です。証拠となるのは不倫現場の写真だけではありません。以下のようにたくさんあるので、しっかり集めておきましょう。
調査会社に頼んで決定的な証拠を得る方法もあります。信頼できる調査会社から弁護士を紹介してもらうこともできます。
明確な証拠がない場合や、プラトニックな浮気が続いている場合は、不貞行為ではなく、婚姻関係を継続し難い重大な事由があり関係が破綻していることを原因にして離婚請求することを考えます。
不貞行為の証拠になるものとは?
- 浮気現場の写真
- ラブホテルに出入りする写真などがあれば強力な証拠となる。
- 浮気相手からのLINE(メール)・電話
- LINEやメール、メッセージアプリの画面、通話履歴は写真に残す。SNSの投稿が証拠になることもある。
- カーナビやETCカードの記録
- カーナビで設定された目的地の履歴を写真に保存する。ETCカードの利用履歴も調べる。
- レシート、クレジットカードの明細
- ホテルやレストラン、プレゼントなどのレシートやクレジットカード明細が証拠となることも。ネット銀行の利用詳細も調べてみる。
- 帰宅時間、外泊の日時や回数
- 帰宅が遅いときや外泊をしたときは、日付と帰宅時間を記録しておく。出張の日付や期間も記録する。
- 口紅などがついた衣装
- 口紅やファンデーションなどがついた衣装は、洗わずにビニール袋などに入れて保存する。
悪意の遺棄とは?
悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに、夫婦の同居義務、協力義務、扶助義務を果たさないという意味です。相手が困ることが分かっているのに、それでも義務を果たさずにいると、離婚原因として認められる可能性が高くなります。
悪意の遺棄に当てはまるかどうかのポイントは、正当な理由があるかどうかです。夫婦の義務を果たしていなくても、正当な理由があれば悪意の遺棄とはなりません。
たとえば別居していても、それが単身赴任だとすれば、もちろん問題とはなりません。配偶者の暴力(DV)がひどくて家を出た場合なども、除外されます。家事をやらないとしても、仕事や病気などの理由でできない場合には、協力義務違反による悪意の遺棄とはなりません。失業中で収入がなければ、生活費を渡さないからといって、扶助義務違反による悪意の遺棄とはいえないのです。
このような正当な理由がないのにも関わらず、夫婦の義務が果たされなかった場合に、悪意の遺棄が問われることになります。正当な理由があるかどうかを証明するには、証拠が必要になることもあります。
実際には、悪意の遺棄という原因だけでは離婚が認められることは、あまりありません。
かつては、ふらりと家を出て行ったまま帰ってこないようなケースを当てはめていました。しかし現在では、そのようなケースの場合、長期間の不在によって婚姻関係が破綻していることを重視し、法定離婚原因第5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」と捉えるのが一般的です。婚姻関係の破綻が、重視されるようになっています。
悪意の遺棄の具体例
悪意の遺棄にあてはまるケースをご紹介します。これだけで離婚が認められることは少なくなっていますが、離婚原因の一つとして法律で定められています。
- 正当な理由なく、配偶者を追い出す
- 同居義務違反。勝手に家を出て別に住居を借りている場合や、配偶者を締め出して家に入れない場合など。暴力(DV)から逃れるための別居は、正当な理由があるので当てはまらない。
- 特別な理由なく家事をしない、働かない
- 協力義務違反。家事を担当する専業主婦(夫)が家事をしない場合や、健康に問題がないのに働かない場合など。仕事があって家事ができない場合や、病気で働けない場合は該当しない。
- 生活費を渡さない
- 扶助義務違反。配偶者が生活に困ることが明らかなのに生活費を渡さない場合。失業や病気で収入がないような場合は、生活費を渡さなくても悪意の遺棄にはならない。
配偶者の生死が3年以上明らかでないときとは?
配偶者の生死が3年以上明らかではないときとは、最後に消息が確認できたところから起算し、生死不明が3年以上続いている状態。これにあてはまれば、離婚原因として認められることがあります。
行方不明と誤解されやすいのですが、行方が分からないだけでなく、生きているか死んでいるかもわからない必要があります。そして、裁判で離婚が認められるためには、生死不明であることを証明しなければなりません。そのために必要なのが、警察に出した捜索願の受理書や親族・友人・知人・職場の人などによる「連絡がないし、見かけてもいない」といった内容の陳述書です。
離婚裁判は基本的には調停の不成立が前提となりますが、この場合は相手がいないので、調停を経ずに裁判を起こすことができます。
失踪宣言とは?
生死不明が3年未満の場合は、この項目にあてはまりませんが、「悪意の遺棄」や「婚姻を継続しがたい重大な事由」によって離婚の判決が得られる可能性があります。
一方、生死不明が7年以上続いている場合は、離婚裁判を起こすほか、「失踪宣言」を利用する方法もあります。
失踪宣言とは、生死不明の状態が7年以上続いている人を、法律上死亡したとみなす制度です。家庭裁判所に申立てをして審判を受け、失踪宣言が認められると、生死不明者は死亡したことになります。
この場合、離婚が成立するのではなく、相手の死亡により婚姻関係が解消されます。そのため、離婚の場合の財産分与ではなく、配偶者が死亡したときと同様に、財産を相続することができます。これが失踪宣言を利用するメリットといえます。
回復の見込みがない強度の精神病とは?
配偶者が重い精神病を患い、回復の見込みがない場合には、それを原因に離婚裁判を起こすことが民法で認められています。
夫婦の関係は精神的なつながりが重要です。しかし、重い精神病によってその関係が失われると、夫婦としての協力義務を果たせなくなります。さらに回復の見込みがないとなれば、夫婦関係の改善は今後も難しいといえ、離婚原因になると考えられているのです。
ただし、離婚原因として認められるには、いくつかの条件が必要です。
重い精神病で義務が果たせないといっても、病気になったのは本人の責任ではありません。そうした理由もあり、回復の見込みがないというだけで離婚が認められたケースは、実際にはごく稀です。
この離婚原因が認められるには、重い精神病で回復の見込みがないことが。精神外科医の診断を参考にして判断されます。対象となる病気の種類も決まっています。
また、結婚してから今までの経過も問題となります。長期間にわたり、相手配偶者が誠実に看病してきたという事実が求められます。そのうえで、病気の配偶者が、離婚後もお金の心配をすることなく治療を受けられ、生活にも困らない見込みがあることなどが条件となります。
離婚裁判となると、病気の配偶者本人が出頭して自分の立場を主張する必要がありますが、判断能力に問題がある場合は、家庭裁判所に「後見人」を選定してもらいます。相手配偶者は、後見人に対して裁判を起こすことになります。通常、後見人には被告の親や兄弟などが選ばれます。
- 後見人とは?
- 判断能力が十分でない本人に代わって権利を行使する人のこと。
強度の精神病が離婚原因と認められる条件
①病気の種類
- 認められるものとは?
-
- 統合失調症
- 躁うつ病
- 偏執病
- 初老期精神疾患
- 認められないものとは?
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- ノイローゼ
- ヒステリー
- 精神衰弱
- アルコール依存症
- 薬物依存症
②病気の程度
長年治療してきたがよくならず、回復の見込みがないことが条件。それを証明するため、専門医による診断書や意見書を提出する。
③これまでの経緯
精神病の配偶者に対し、長年にわたって看病や介護を続けてきたかどうかも考慮される。
④離婚後の生活の見込み
離婚後も治療を継続できる見通しが立っていること、経済的に困らない見通しが立っていることが求められる。
離婚を継続しがたい重大な事由とは?
婚姻を継続しがたい重大な事由というのは、とても曖昧な表現です。しかし、だからこそ多くのケースがこの原因にあてはまります。実際、離婚を求める裁判の多くで、離婚原因の一つとしてこれが加えられています。
日本の離婚裁判は、基本的には夫婦の義務などを守らなかった人の責任を重視する有責主義にもとづいています。それが近年、婚姻関係の破綻を重視する方向へと、裁判所の判断基準が変わってきているのです。
婚姻を継続しがたい重大な事由によって離婚裁判が起こされた場合、裁判所は個々のケースで判断することになります。双方の言い分を聞き、現在の夫婦の状況なども考え合わせ、すでに婚姻関係が破綻していて修復不能だと判断されれば、離婚を認める判決がでることになります。
婚姻を継続しがたい重大な事由と認められるもの
- 長期間の別居
- 別居が長く続いていることは、婚姻関係が破綻していることを客観的に表す。関係の修復は難しいと考えられる。
- 性的な不一致
- 常識から逸脱している異常な性行為を強要される場合、セックスの拒否などがある場合、婚姻を継続しがたい重要な事由と認められることがある。
- 犯罪行為に伴う服役
- 服役が直ちに離婚原因と認められるわけではないが、何度も繰り返す場合や、服役期間が長い場合は、婚姻関係の継続が困難と考える。
- 暴力・虐待
- 配偶者から暴力や虐待を受けている場合は、婚姻関係の継続が困難と認められる。心を傷つける暴言などの対象。
- アルコール中毒・薬物依存
- これらの精神疾患により、配偶者から暴力や暴言などの被害を受けている場合には、重大な事由として認められる可能性がある。
- 借金・ギャンブル・浪費
- 程度の問題だが、これらの行為を繰り返し、生活を圧迫するような状態になっている場合には重大な事由と認められる。
- 過度な宗教活動
- 宗教活動が直ちに認められることはないが、多額のお金をつぎ込むなど、生活の崩壊を招いている場合には認められる。