夫婦には「同居義務」がありますが、相手の承諾がないからといって別居できないということはありません。DV(ドメスティック・バイオレンス)被害があるような場合は、無理に同居せず一刻も早く別居した方がよいでしょう。
離婚前の別居について
結婚生活が続けられないときに選択されることが多いのが別居です。別居には、お互いに冷却期間を置ける、離婚に向けての話合いを冷静に進められる、離婚後の生活をイメージしやすい、などのメリットがあります。
また、相手が離婚に同意しない場合は、長期間の別居を設けることで、それ自体を婚姻関係の破綻として離婚原因にすることができます。
離婚前別居のメリット・デメリット
メリットとデメリットを理解し、しっかり準備したうえで行動に移しましょう。
メリット
- メリット①お互いが冷静になれる
- 物理的な距離をとることでお互いが冷静になれる。また、子どもに両親の争う姿を見せずに済む。
- メリット②離婚の話し合いが進めやすくなる
- 改めて話し合いの場を設けることになるので、離婚に向けた話し合いが進めやすくなる。
- メリット③離婚後の生活がイメージできる
- 金銭面、生活面、仕事面など、離婚後の生活で必要なものが具体的に分かる。
デメリット
- デメリット①生活費が余分にかかる。手続きも必要
- 別居用の住まいが必要で、日々の生活費もかかる。住民票を異動する、児童手当の受取人を変えるなど、さまざまな手続きも必要になる。
- デメリット②証拠や情報の確保が難しくなる
- 不貞行為やDVに関する証拠・情報の確保が難しくなる。相手が財産の情報を隠したり、離婚協議の前に勝手に離婚届を提出されてしまう可能性もある。
別居と婚姻費用の請求
住み慣れた家を出る際に必要なのは、住まいと「生活費」の確保です。事前の貯金、収入源となる仕事は必須です。
ただし、別居中でも、婚姻中に必要な生活費は夫婦双方に負担義務があります。相手の収入の方が多ければ、多くの場合は「婚姻費用」として相手に請求できます。
配偶者に扶養義務があるにも関わらず、生活費の支払いを拒否された場合、家庭裁判所に調停を申し立てて請求することができます。
婚姻費用とは?
婚姻中の夫婦は、結婚生活を続けるために必要な費用を分担します。この費用を「婚姻費用」といいます。婚姻関係にある限り、婚姻費用の分担は夫婦の扶助義務です。
したがって、離婚を前提とした別居中であっても、どちらかが専業主婦(夫)やパートタイマーのために収入が少なければ、多くの場合、収入の多い方に婚姻費用を請求することができます。同居していて生活費を渡してくれないような場合も、請求することができます。
婚姻費用の目安
婚姻費用に含まれる内容には、下記のものがあげられます。
婚姻費用は実費で請求するものではなく、双方の合意か家庭裁判所の審判で月々の金額を決定します。家庭裁判所では、夫婦の収入や養育する子どもの人数など、実情に応じた「婚姻費用の算定表」を作成しています。
相手が無収入だったり、双方の収入の差が大きいほど、婚姻費用の金額は高くなります。
婚姻費用に含まれるもの
結婚生活を続けるうえで必要な費用が対象です。
- 子どもの養育費
- 衣食住にかかる費用
- 医療費
- 交際費
- 娯楽費 など。
婚姻費用はいつから請求可能?
婚姻費用は、請求した時点からしかもらうことはできません。収入が相手より少なかったりゼロに近いなどで、婚姻費用の必要性が高い場合は、相手に請求しましょう。
一方、双方の収入があまり差がないなど、わずかな婚姻費用しか発生しない場合には、婚姻費用で揉めるよりも、離婚協議や調停を進めるほうが早く離婚が成立するかもしれません。
婚姻費用の支払い請求はよほどの事情がない限り拒否は認められず、離婚成立時まで支払います。また、一度同意した費用の減額は、病気などで就業が困難になった場合を除き、難しいと考えてください。
歯科医であった夫は病院を退職し、大学の研究生として勤務することに。給料の減少を理由に婚姻費用の減額を請求しました。
家庭裁判所は月額6万円から1万円に減額する審判を下しましたが、高等裁判所は「転職のやむを得ない事情を明らかにする証拠がなく、年齢や資格、経験等からみて、夫には同程度の収入を得る稼働能力があると認められる」として、減額の審判を取り消した。
参考:大阪高等裁判所・平成22年3月3日
別居と同居義務違反
別居にあたっては、突発的・一方的に家を出るのではなく、計画的に進めましょう。
DVを除いて、別居後の正当な理由が相手に伝わらなければ、離婚の際に相手から「同居義務違反」として責任を問われる可能性もあります。
メールや電話などで「なぜ別居するのか」という理由をしっかり伝え、証拠も残しておきましょう。
ただし、同居義務違反を理由に強制的に別居を解消させることはできません。離婚する意志があれば、別居をやめる必要はありません。
別居の準備
離婚を少しでも有利に進めるためには、証拠・情報集めが重要です。相手に責任があり、慰謝料を請求する予定なら、その証拠となるメールLINE、写真はできる限り集めておきましょう。DVによるケガがある場合には、医師の診断も用意します。
お金に関する情報も大切です。離婚届の提出後に慰謝料や財産分与、年金分割といった離婚条件を話し合うことは難しく、手続きも煩雑になります。相手の収入がわかるものや、証券類、不動産の権利書、生命保険証券などはコピーしておきましょう。
財産の勝手な処分を防ぐには「保全処分手続き」を利用します。
離婚届は「不受理申出」の手続きを行うと、勝手な提出を防ぐことができます。不受理申出は、本人が知らないうちに提出された書類を受け取らないよう、市町村役場にあらかじめ申し出るものです。のちに本人が申出を取り下げることで、効力はなくなります。
手続きは原則、本人が本籍地のある役場窓口に「離婚届不受理申出」を提出します。本籍地が遠ければ、宛先を本籍地の市区町村長にし、住居地の役場に提出します。
別居と子ども
裁判所が親権者を決める場合、現状で子どもを監護している側が優先されます。そのため、親権をとりたいと考える場合には、子どもを連れて家を出るようにします。
別居先に住民票を異動すると、転園・転校の手続きがスムーズです。児童手当の受取人が相手になっている場合には、受取人の変更手続きも済ませておきましょう。また、可能であれば、別居中の子どもとの面会ルールを決めておくと良いでしょう。
別居に向けてやっておくこと
協議離婚・調停・裁判に進めるためにも、別居前の準備は重要です。
- 不貞行為などの証拠の確保
- 不貞行為を起こしたことを立証できるものがあれば、相手に離婚の責任があるとして慰謝料請求も可能に。ラブホテルの領収書(クレジットカード明細など)、メールやLINE、SNSなどの記録のコピーをとる。
- 婚姻費用の請求
- 婚姻中にかかる生活費は、夫婦間で金額の取り決めを行うか、「内容証明郵便」を使って具体的な金額を請求する。相手が応じない場合は家庭裁判所で「婚姻費用分担請求調停」を申し立てる。
- 財産情報の確保
- 給与明細や銀行の取引明細などのほか、不動産の権利書や生命保険証書など、収入や資産がわかる書類はコピーをとる。また、家財道具も財産となるため、しっかり写真は撮っておく。
- 役場や郵便局での手続き
- 別居先に住民票を異動し、自らが世帯主になることで小中学校の編入手続きや児童手当の受給など、いくつかの手続きが簡単になる。郵便物の転送手続きも併せて行う。
別居時に持ち出すもの
離婚するために必要なもの、子どもに必要なものをリスト化して漏れないようにしてください。
- 自分の貯金通帳、カード、届出印
- 実印、銀行印、印鑑証明カード
- 健康保険証、パスポート、運転免許証、マイナンバーカード
- アドレス帳など知人の連絡先
- 源泉徴収票など相手の収入がわかる資料のコピー
- 不動産の権利証のコピー
- 生命保険証券のコピー
- 相手の通帳、株券、債券、会員権などのコピー
- 不貞行為、DVなどの証拠
- 個人的に大切な品物
- 常備薬、お薬手帳 など。